ウイスキーやビールを造る上で、欠かせない麦の甘いジュース「麦汁」。
一番搾り麦汁だけをつかったキリンの「一番搾り」など麦汁へのこだわりを謳ったビールは多いです。ところが、ウイスキーだとそういった銘柄は見たことがないでしょう。
ウイスキーの場合、蒸留と樽熟成に注目されがち。ただし麦汁を作る糖化工程はウイスキーを作るうえで大変重要な工程で、麦汁によって味わいにも大きな違いが生まれます。
この記事では、マニアックにウイスキーの糖化についてまとめました。
「麦汁」について

麦汁とは簡単に説明すると麦芽の甘いジュース。
糖度でいうと1番麦汁が約20度、2番麦汁が約5度といわれています。
- イチゴ 8~13度
- メロン 12~18度
- 桃 13度
- バナナ 16~20度
- ぶどう 17度
このように見ると一番麦汁がいかに糖度が高いかわかるかと思います。
ところが、『糖度が高い=甘い』わけではないことに注意しなくてはいけません。糖度は糖分が多く含まれているという意味で、糖類の中にはそこまで甘味を感じないものもあります。
例えば麦汁に多い「麦芽糖(マルトース)」は、ショ糖(砂糖・スクロース)の35%程度の甘さといわれており、穏やかです。
糖化工程

まず麦芽を粉砕する
まずは『グリスト』という粉砕麦芽を作ります。グリストは粒の大きさで3つに分けられます。
- 外殻の多く含んだ一番大きなハスク
- 中程度のグリッツ(大体砂場の砂ぐらいの大きさです。)
- 一番細かいフラワー(小麦粉の細かさぐらいです。)
ウイスキーなど麦芽を使うお酒造りではこの比率が重要。
ハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1になるように調節するのが一般的です。
- ろ過材としてハスクが必要
→フィルターの役割を担ってくれる+タンニンが出る - グリッツがメイン
→脂肪酸など望ましくない成分を抑えて、程よく糖分を抽出したいため - フラワーが少ない
→脂肪酸など余計な成分まで抽出されやすい
温水を加える
グリストに約70℃ぐらいの温水をまぜ、糖化槽の中が65℃程度になるように温度調節をして糖化させます。
65℃の理由は、アミラーゼというでんぷんを糖に変える酵素が活性化する温度であるためです。
この時のグリストと温水の比率は大体1:4ぐらい。温水と麦芽を混ぜた”麦のおかゆ”のようなものをマッシュ、マイシュといいます。
ろ過して1番麦汁をとる
糖化後、ろ過して出来上がるのが1番麦汁。その後、温水の量と温度を調節しながら同じ工程を繰り返して2番麦汁、3番麦汁ととっていきます。
ウイスキーだと、一番麦汁と二番麦汁を混ぜて糖度13~14度ぐらいにして発酵させる蒸留所が多いです。
三番麦汁や四番麦汁は、次の一番麦汁や二番麦汁を抽出するときの温水として使われます。

麦汁ってどんな味??

麦汁は普段飲む機会はないでしょう。なので味の想像ができないかと思います。もし麦汁の味を経験したかったら、「キリン一番搾り おいしさの秘密見学ツアー」に参加してみるのがお勧めです。
このツアーでキリンの一番麦汁と二番麦汁の飲み比べができます。僕個人の感想ですが、一言でいうと「塩気のない砂糖醤油を水で伸ばした感じ」です。甘味と旨味が強く、コクがしっかりとした印象でした。
麦汁でウイスキーが変わる

糖化はウイスキーの製造工程の中で、地味で注目されることは少ないが大変重要な工程だとさまざまな蒸留所の方から聞いたことがあります。
例えば、アルコール収率を造りたいとき、いかに効率よくでんぷんを糖化できるかがカギの一つです。蒸留時にアルコールをより多く濃縮するためには、酵母により多くのアルコールを作ってもらう必要があります。
その酵母にアルコールを作ってもらうためには、糖化工程でなるべく多くの糖を作ればいいわけです。糖化工程は、最終的にウイスキーの香味や量を変えてしまう大事な工程でもあります。
麦汁の抽出時の温度は1℃で味が変わる!!

糖化は酵素の働きによってでんぷんを糖に変える作業です。
ウイスキー造りの場合、でんぷんを糖に変える酵素(アミラーゼ)は2つの酵素の働きが大きいです。
その2つは、α-アミラーゼとβ-アミラーゼ。
α-アミラーゼはでんぷんを適当なサイズで分解していく酵素のことで、65~70℃の温度でよく働きます。
対して、β-アミラーゼはでんぷんの結合を2分子ずつ分解していく、つまり二糖類である麦芽糖を多く作ってくれます。最も活性化する温度は55~66℃です。
| α-アミラーゼ | でんぷんを適当なサイズで分解 | 65~70℃で活性化 |
|---|---|---|
| β-アミラーゼ | でんぷんの結合を2分子ずつ(麦芽糖)に分解 | 55~66℃で活性化 |
両方とも活性化する65℃が糖化工程のセオリーだそう。
ただあえて65℃より低くしたり、高くしたりすることもあります。

温度を低くするとβ-アミラーゼがよく働くので麦芽糖がよくできます。酵母は分子の小さい糖でないとアルコール発酵ができないのでβ-アミラーゼが働くとアルコール収率が高くなります。
アルコール発酵に多くの糖分が使われるので、結果ライトなウイスキーに仕上がりやすいです。
反対に温度を高くするとα-アミラーゼがよく働き、β-アミラーゼの働きが弱くなります。すると酵母が食べられない糖分が多くできるようになり、結果ウイスキーは重めな酒質になるといわれています。
抽出方法の違いで全く味わいが変わる!

麦汁の抽出方法はインフュージョン法とデコクション法の二つに分かれます。
| インフュージョン法 | 温水を注いで糖化・抽出を行う |
|---|---|
| デコクション法 | 一部だけ麦汁を煮て、戻しながら温度を上げ糖化させる |
インフュージョン法
インフュージョン法にはさらにワンステップ・インフュージョン法とツーステップ・インフュージョン法があります。
これは温度管理を1段階だけにするか、2段階行うかの違い。2段階に分けて行うことで、より澄んだ麦汁を得ることができますが、コストがかかります。
ツーステップ・インフュージョン法は初めに50℃ぐらいの温度でたんぱく質の分解を行います。その後65℃ぐらいに温度を上げて、糖化。たんぱく質がアミノ酸に変わりやすく、澄んだ麦汁を得ることができる傾向があります。
対してワンステップ・インフュージョン法は、上で紹介した段階を踏まずに65℃の温水で糖化させる方法。ウイスキーでは、コスト重視のワンステップ・インフュージョンが多いです。
デコクション法
デコクション法はグリストと温水を混ぜたマッシュの一部を別の鍋に移し、別鍋のほうのマッシュを煮る方法です。
デコクション法の方が、濃くエキス分を抽出することができる傾向があります。
またワンステップ・インフュージョン法より澄んだ麦汁になりやすく、ツーステップ・インフュージョン法とデコクション法は主にビールに多い方法です。
ただ、ウイスキーでも行っているところ、実験しているところもあると聞いたことがあります。特にビール工場が併設されている蒸留所や元ビール工場の蒸留所はもしかしたらやっているかもしれないですね。
麦汁の濁り具合で味が変わる!!

糖化時の温度や抽出方法で麦汁の状態が大きく変わります。濁った麦汁では重たい成分が多く、澄んだ麦汁では華やかでライトな酒質となりやすい傾向があります。
今までの話では、澄んだ麦汁のほうが優れているように感じるかもしれませんが、あえて濁った麦汁を使う蒸留所もあります。

中でも特に有名な所は「ブレアアソール」蒸留所。
ブレアアソールは麦汁の濁り具合で味わいの重みを出しているようです。


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