フレッシュトマトとクランベリーのタルティーヌを合わせると、ウイスキーのアルコール感が勝ってしまいました。
相手は、SMWS 9.313「Honey, I’m home!」。
ハチミツを思わせる深いコクと、濃厚な果実味を持つ1本です。
このウイスキーに料理を合わせるために考えたのが、カプレーゼの構造を「凝縮」することでした。
トマトはドライトマトへ。
乳製品にはクロテッドクリームを使い、ドライクランベリーの甘味と酸味を重ねます。
出来上がったタルティーヌを合わせると、9.313のハチミツを思わせる香りが引き立ちました。
凝縮したトマトの旨味とクランベリーの酸味も埋もれず、料理とウイスキーのボリュームが近づいた感覚がありました。
今回は、2026年9月25日の「Drink & Discover Vol.3」で提供した、このペアリングを紹介します。
料理の完成形とともに、そこへたどり着くまでに何を考えたのかを書いてみます。

SMWS 9.313で注目したのは、果実味とハチミツのような深いコク
今回の料理で合わせたかったのは、9.313が持つ濃厚な果実味と、ハチミツを思わせるコクです。
The Scotch Malt Whisky Society、通称SMWSの「9.313 Honey, I’m home!」は、17年熟成、アルコール度数55.6%のウイスキー。
公式説明によると、15年熟成の複数樽をまとめ、異なる樽へ移して追加熟成したシリーズのひとつです。
9.313では、バーボン樽熟成を経た原酒を、ファーストフィルのソーテルヌ・バリックで追加熟成しています。
僕が飲んで印象に残ったのは、グレングラントらしいフルーティさを持ちながら、果実のニュアンスが濃厚で複雑なことでした。
そこにハチミツを思わせる、深みのある甘い印象が重なります。
ここでいう「甘さ」は、ウイスキーにハチミツが入っているという意味ではありません。
香りや口に含んだ印象を、ハチミツにたとえています。
今回合わせた飲み方はストレート。
55.6%という度数に加え、果実味や甘味感にもボリュームがあるため、料理側も香りの方向だけを合わせればよいとは考えませんでした。
この香味と並んだとき、料理の味がどれだけ残れるか。
そこが、今回の組み立てで気になったところです。
フレッシュトマト版では、アルコール感が勝ってしまった
実際にフレッシュトマトとクランベリーのタルティーヌを合わせると、9.313のアルコール感が料理より前に出ました。
発想の起点はカプレーゼです。
トマトの酸味や旨味に、乳製品のコクを合わせる。
その組み合わせを土台に、9.313のフルーティさへつながる料理を考えていました。
ただ、香味の方向が近くても、口の中で感じる強さまで釣り合うとは限りません。
今回のフレッシュトマト版では、そこに差がありました。
これは、フレッシュトマトがウイスキーに合わないという話ではありません。
少なくとも今回の組み立てと、ストレートの9.313では、アルコール感が勝ってしまったという体験です。
そこで、料理側の味の密度を上げることにしました。
塩味や辛味を強くするよりも、トマトや果実の味そのものを、ひと口へ集めたい。
その考えから生まれたのが、ドライトマトとドライクランベリーのタルティーヌでした。
カプレーゼの構造を、ひと口に凝縮する
「カプレーゼを凝縮する」といっても、完成したカプレーゼを煮詰めたわけではありません。
トマト、乳製品、オイルという組み合わせを手掛かりに、食材を選び直しました。
トマトにはドライトマトを、乳製品にはクロテッドクリームを使います。
そこへドライクランベリーを加え、果実の甘酸っぱさを重ねました。
クランベリーは通常のカプレーゼの構成要素ではなく、9.313の果実味へ近づけるために加えたものです。
乾燥によって味を集める部分と、乳脂肪で口当たりに厚みを作る部分。
方法を分けながら、料理全体のボリュームを整えています。
| 食材 | 今回の設計で持たせた役割 |
|---|---|
| ドライトマト | 凝縮した旨味と甘酸っぱさで、料理側の味の密度を上げる |
| ドライクランベリー | 果実の甘味と酸味を加え、ウイスキーの濃厚な果実味との接点を作る |
| クロテッドクリーム | 乳脂肪のコクと滑らかさで、口当たりに厚みを持たせる |
| ドライトマトのオイル | トマトとクリームの風味をつなぐ |
| 塩 | クリームの味を調える |
| ミニトースト | 具材をひと口にまとめ、香ばしさと食感を添える |
ドライトマトで、料理としての旨味を残す
ドライトマトに求めたのは、9.313と並んでも残る、トマトの味でした。
今回使ったのは、市販のオイル漬けです。
フレッシュトマトのみずみずしさから、凝縮された旨味へ重心を移しました。
クランベリーとクリームだけなら、果実と乳製品の組み合わせになります。
そこにトマトの旨味が加わることで、甘酸っぱさだけでは終わらない料理を目指しています。
9.313にトマトと同じ香りを探したわけではありません。
トマトには、料理側の味を支える役割を持たせました。
▼▼▼ 実際に使用したドライトマト ▼▼▼
クランベリーの甘酸っぱさを、果実味への接点にする
ドライクランベリーは、戻さずにそのまま使いました。
狙ったのは、甘味と酸味を伴う、密度のある果実感です。
9.313から感じた濃厚で複雑なフルーティさを、料理へどう置き換えるか。
今回は、その接点をドライクランベリーに求めました。
ただし、同じ果物の香りを再現することが目的ではありません。
料理側にも果実の存在感を作り、ウイスキーと並べたときに、どちらか一方だけが目立たない状態を目指しています。
クロテッドクリームで、口当たりに厚みを作る
クロテッドクリームには、乳脂肪のコクと滑らかさを持たせました。
トマトとクランベリーの甘酸っぱさを、厚みのある口当たりでまとめるためです。
さらに、ドライトマトが漬かっていたオイルと塩を混ぜています。
クリームにもトマト側の風味を持たせることで、具材同士をつなぐ意図がありました。
ここで狙ったのは、アルコールを消すことではありません。
9.313の濃厚さに対して、料理にも受け止めるだけのコクを作ることです。
▼▼▼ 今回使用したクロテットクリーム ▼▼▼
ミニトーストまで含めて、ひと口を組み立てる
土台には市販のミニトーストを使いました。
タルティーヌは、パンに具材をのせたオープンサンドのこと。
今回は、ドライトマト、クランベリー、クリームを、小さなトーストの上へまとめています。
パンは、具材を運ぶための土台であると同時に、香ばしさと食感を加える要素です。
クリームの滑らかさだけで終わらず、噛んで味わう部分も作る。
ウイスキーとの接点だけでなく、料理をひと口で食べたときのまとまりも考えました。
▼▼▼ 今回使用したミニトーストはこちら ▼▼▼

実際に合わせると、ハチミツ香が引き立ち、料理も残った
ドライトマト版を9.313と合わせると、ハチミツを思わせるフレーバーが引き立ちました。
同時に、凝縮したトマトの旨味とクランベリーの酸味も、ウイスキーに負けずに残ります。
フレッシュトマト版ではアルコール感が勝っていましたが、今回は料理とウイスキーのボリュームが近くなっていました。
僕には、そこでようやくフレーバーが調和できる状態になったように感じられました。
香りの共通点を探す前に、互いの存在感が釣り合っていること。
このペアリングでは、その大切さを実感しています。
ハチミツのような甘い香りを引き立てる一方で、料理にはトマトの旨味とクランベリーの酸味がある。
両方の味が残るからこそ、それぞれの要素を一緒に感じられたのだと思います。
今回の変化は、料理のボリュームを近づけることで、香味のつながりを感じやすくなったことでした。
Drink & Discover Vol.3で提供したひと皿
このペアリングは、2026年9月25日に開催した「Drink & Discover Vol.3」で提供しました。
会場では、9.313のストレートとタルティーヌを合わせています。
参加者の反応も良く、実際のイベントで楽しんでもらえた組み合わせになりました。
約35人が参加した当日は、9.313が1本空き、ウイスキー自体もよく飲まれていました。
ペアリングへの反応が良かったことと、9.313自体の人気が高かったこと。
どちらも当日の出来事として、印象に残っています。

強度をそろえる方法は、味付けを強くすることだけではない
今回、料理側で調整したのは、主に水分の少ない食材と乳脂肪による厚みでした。
ウイスキーが力強いからといって、塩やスパイスを増やす方向へは進めていません。
9.313から感じたのは、強いアルコール感だけでなく、濃厚な果実味とハチミツのようなコクです。
料理にも、その方向へつながる密度が欲しいと考えました。
ペアリングを組み立てるとき、僕が見たいのは「質・強度・時間」です。
質は、どんな香りや味、口当たりを持っているか。
強度は、口に入れたときにどれだけ存在感があるか。
時間は、食べて飲んだ後まで、何が残っているか。
今回なら、果実の甘酸っぱさとクリームのコクが「質」の接点になります。
ドライトマトへ変えたことで、料理側の「強度」を調整しました。
そして、ウイスキーを飲んでもトマトの旨味やクランベリーの酸味が残ったことは、「時間」を考えるうえでも手掛かりになります。
家庭でペアリングを試すときも、似た香りがあるかに加えて、食べて飲んだ後に何が残るかへ目を向けてみてください。
ウイスキーだけが残るのか、料理だけが残るのか。
両方を感じられるなら、どの味や香りがつながっているのか。
そこまで見ると、次に何を調整したいのかが考えやすくなります。
組み合わせを考える基本や、うまく合わなかったときの調整方法は、ウイスキーと料理のペアリングガイドでも紹介しています。
まとめ|ウイスキーの香味から、料理の形を考える
SMWS 9.313に合わせたのは、ドライトマトとドライクランベリー、クロテッドクリームを使ったタルティーヌです。
出発点にはカプレーゼの組み合わせがあり、フレッシュトマト版ではアルコール感が勝ったという試作がありました。
そこで、トマトを凝縮されたものへ変え、果実の甘酸っぱさと乳脂肪の厚みを重ねています。
実際に合わせると、9.313のハチミツ香が引き立ち、料理の旨味と酸味も残りました。
香りを似せることに加えて、強度や質感、飲んだ後に残る味まで考える。
今回は、料理とウイスキーのボリュームを近づけることが、フレーバーの調和へつながったペアリングでした。



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