【ウイスキー用語】エンジェルズシェアとは?ウイスキーが蒸発する理由と熟成の関係を解説

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ウイスキーの熟成では、樽の中の原酒が少しずつ蒸発していきます。

この蒸発によって失われる量は、熟成環境にもよりますが 年間およそ2〜5% と言われています。

蒸留所ではこの蒸発を 「エンジェルズシェア(Angel’s Share)」=天使の取り分 と呼びます。

なぜウイスキーは熟成中に減っていくのか。どのくらいの量が失われるのか。

そして、この現象はウイスキーの味にどのような影響を与えるのでしょうか。

この記事では、下記の点をわかりやすく解説します。

  • エンジェルズシェアの意味
  • なぜ蒸発が起きるのか
  • 熟成による減少量
  • 地域による違い
目次

エンジェルズシェアとは

エンジェルズシェアとは、樽熟成中に蒸発して失われるウイスキーの量を指す言葉です。

ウイスキーは木製の樽の中で長期間熟成されますが、樽は完全に密閉されているわけではありません。

木材の微細な隙間からアルコールや水分がゆっくり蒸発していきます。

樽熟成中に蒸発するもの
  • アルコール
  • 水分
  • その他揮発性成分(香りにかかわる成分が多い)

この現象を蒸留所では、「天使が少しずつお酒を飲む代わりに、”お酒を美味しくする”分け前をくれる」 という意味でエンジェルズシェアと呼びます。

なぜウイスキーは熟成中に蒸発するのか

エンジェルズシェアが起こる理由は、樽熟成の構造そのものにあります。

主な理由は次の3つです。

① 樽は完全密閉ではない

気密性が高く、堅牢に作られているオーク樽ですが、実は空気をわずかに通す構造となっております。

そのわずかな空気の通り道から、気化した水分やアルコールがゆっくり抜けていく……。

これがエンジェルスシェアの原因の一つです。

樽熟成中に起きていること
  • 酸素の出入り
  • 水分の蒸発
  • アルコールの蒸発

この現象は蒸留所では「樽が呼吸する」と表現されることがあります。

もちろん樽が実際に呼吸しているわけではありません。

実際には、後述する温度変化による膨張と収縮によって樽の内部と外気の間でガス交換のことです。

これが結果として呼吸しているように見えるため、呼吸と例えられています。

② 温度変化による膨張と収縮

熟成庫では季節や昼夜によって温度が変化します。

温度が上がる
  • ウイスキーが膨張
  • 樽材(木材)も膨張し、板同士の結合が締まる
  • 樽内部の圧力が上昇
温度が下がる
  • ウイスキーが収縮
  • 樽材も収縮してわずかな隙間が生まれる
  • 樽内部の圧力が低下する

この膨張と収縮が繰り返されることで、樽材を通して樽の内部と外気の間で微量の空気や蒸気の出入りが起こり、その過程でアルコールや水分の蒸発が進みます。

③ アルコールと水の蒸発差

アルコールと水では蒸発しやすさが異なります。

条件によっては、アルコールが多く蒸発することがあれば、水が多く蒸発することもあるのです。

この結果、熟成中にアルコール度数が上がることもあれば下がることがあります。

この蒸発の傾向は熟成庫の湿度にも影響を受けます。

例えば、乾燥した環境では水が蒸発しやすくなるため、樽の中のアルコール度数が上昇することが多いです。

一方、湿度が高い環境ではアルコールの蒸発が進みやすく、熟成中にアルコール度数が下がる場合もあります。

このため、同じウイスキーでもスコットランドやケンタッキー州、日本など、熟成する地域によってアルコール度数の変化が異なることがあります。

エンジェルズシェアはどれくらい減る?

蒸発量は環境によって変わりますが、一般的には次のような目安があります。

地域年間蒸発量の目安
スコットランド約2%
アメリカ(バーボン)4〜8%
日本2〜6%

ただし、同じ地域でも一概に同じように目減りしていくわけではありません。

例えば、初年度のエンジェルスシェアはスコットランドでも5%ほどとなることが多いようです。

安井

さまざまな要因が重なって目減りするそうなので、中には全然減らない樽もあるそうです。

熟成年数による減少量のイメージ

エンジェルズシェアは毎年少しずつ積み重なります。

例えば、年間2%で蒸発すると仮定すると10年熟成ではおよそ 20%前後 が失われます。

長期熟成ではさらに大きくなります。

熟成年数残量の目安
10年約80%
20年約65%
30年約55%
熟成年数と残量

このため、長期熟成ウイスキーは非常に少ない量しか残らないのです。

【簡易シミュレーター】エンジェルズシェア計算

エンジェルズシェア計算ツール

地域ごとの年間蒸発率に、樽サイズを加えて残量を概算するシミュレーターです。
あくまでもネタや参考程度にご利用いただけたらと思います。










結果

初期容量
 →→ 約

熟成後の残量
 →→ 約

失われた量(エンジェルズシェア)
 →→ 

推定本数(カスクストレングス|700ml換算)
 →→ 約

 

実効蒸発率: %

※簡易シミュレーターです。実際の蒸発量は、湿度・倉庫環境・樽材の状態などで変動します。

計算条件
  • 最初の樽詰め時の充填量は、容量の90%
  • エンジェルスシェアは目安として初年度だけ通年の2倍
  • 推定本数(アウトターン)はカスクストレングスで700ml換算

エンジェルズシェアと熟成の関係

ここまでの説明でのエンジェルスシェアは、「ロス」「目減りする」という面が大きく見えていると思います。

しかし実際には、エンジェルズシェアは熟成の質にも深く関わっています。

樽の中では、アルコールや水分が少しずつ失われる一方で、液体の組成そのものもゆっくり変化。

その過程で起こる主な変化が、次の3つです。

  • 香味の凝縮
  • 酸化反応
  • 樽成分の抽出

まず、アルコールや水分が蒸発することで、樽の中に残った成分の密度が相対的に高まり、香りや味わいがより凝縮して感じられるようになります

また、樽は完全密閉ではないため、熟成中にはごくわずかに酸素も関わります。

この穏やかな酸化によって、原酒の荒さが落ち着き、香味が丸くまとまりやすいです。

さらに、ウイスキーは樽の内側に触れながら熟成するため、オーク由来のバニラ香、スパイス香、ウッディなニュアンス、色合いなども少しずつ取り込んでいきます。

つまり、エンジェルズシェアは単なる目減りではなく、原酒が時間をかけて変化し、個性を深めていく熟成プロセスの一部と見ることができます。

もちろん、蒸発が多すぎればロスは大きくなります。

一方で、このゆっくりとした減少があるからこそ、樽熟成ウイスキー特有の複雑さや奥行きが生まれるとも言えるでしょう。

デビルズカットとの違い

エンジェルズシェアとあわせて語られることがあるのが、デビルズカット(Devil’s Cut)です。

エンジェルズシェアが樽の外へ蒸発して失われる分を指すのに対し、デビルズカットは樽材の内部に染み込み、取り出しにくくなった原酒を指します。

樽から蒸発していく分がエンジェルズシェア。樽にしみこんでいく分がデビルカット。

つまり、熟成後に樽から原酒を出すときには

  • 蒸発して失われた分=エンジェルズシェア
  • 樽に染み込んで残る分=デビルズカット

という2種類のロスが存在します。

蒸留所やボトラーが最終的に取り出せる量が限られるのは、この両方が関係しているからです。

アウトターンとは?

ウイスキーの世界で使われるアウトターン(Outturn)とは、1つの樽や1つのバッチから最終的に瓶詰めできた本数・量のことです。

樽詰めした時点では多くの原酒が入っていても、実際にボトリングできる量は大きく減ります。

アウトターンに関係する要因

長年の熟成で減るエンジェルズシェア

↓↓↓

樽材に染み込むデビルズカット
↓↓↓
まれに樽から漏れ出てしまう分

この最終的な取り出し量が少ないほど、アウトターンも少なくなります。

つまり、

  • エンジェルズシェア
  • デビルズカット
  • 熟成年数

は、最終的なアウトターンに直接関わる要素です。

シングルカスクの本数が限られる理由も、この仕組みを理解するとイメージしやすくなります。

なぜ長期熟成ウイスキーは高価なのか

長期熟成ウイスキーが高価になる理由のひとつがエンジェルズシェアです。

例えば30年間熟成したとして、スコットランドやアイルランドで年間2%蒸発した場合、原酒の半分近くが失われる可能性があります。

ほかにも、長年ウイスキーを保管していると様々な問題が発生します。

  • 長年熟成庫で保管しておくことや樽の管理にかかるコスト
  • 長年の熟成で樽から液漏れしてしまうリスク
  • 長年熟成させて飲めない品質になるリスク

エンジェルスシェアのほかに、上記のようなコストやリスクが発生するため、古いウイスキーほど価格が上がりやすいのです。

まとめ

エンジェルズシェアとは、ウイスキーの熟成中に蒸発して失われる量のことです。

ポイントをまとめると

  • 樽熟成では毎年少量が蒸発する
  • 蒸発率は地域や環境によって変わる
  • 蒸発は熟成プロセスの一部
  • 長期熟成ほど残量は少なくなる

この現象こそが、ウイスキー熟成のロマンの一つと言えるでしょう。

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