ウイスキーと猫。
可愛らしい猫と重厚なウイスキーの組み合わせは一見意外に感じられるかもしれません。
ところが、ウイスキーには「ウイスキーキャット」という用語があるほど、深い歴史と実用的な役割に裏付けられた関係性があります。
本記事では、「ウイスキーキャット」とは何か、その歴史的背景、現代における役割、さらには代表的なウイスキーキャットたちの物語まで、猫好き&ウイスキー好きの方に向けてやさしく、そして専門的に解説します。
ウイスキーキャットとは?

ウイスキーキャットとは、ウイスキー蒸留所で飼われていた、あるいは現在も飼われている猫のことを指します。
かつて多くの蒸留所では、穀物を狙ってやってくるネズミや小鳥が大きな問題となっていました。
特にモルトや穀物の保管庫は絶好の標的であり、害獣被害が製造工程に深刻な影響を与えることも……。
そこで活躍したのが、ネズミ退治に優れた猫たちです。
ウイスキーの原料には一切興味を持たず、確実にネズミを仕留めてくれる猫は、まさに理想的な「番ネコ」だったことでしょう。
蒸留所の正式な一員として名簿に登録される猫も現れ、ウイスキーキャットは多くの蒸留所で導入されるようになりました。
なぜ猫だったのか?
ウイスキーキャットが誕生した理由には、猫の習性が大きく関わっています。
- 自分のテリトリーを守る本能が強い
- 獲物を狩ることに長けている
- 基本的にはおとなしく施設内に適応する
- 穀物やウイスキーの原料に干渉しない
- ネズミや小鳥などの気配を察知すると即座に対応できる
- 機械や毒を使わずに、害獣駆除ができる
紀元前からねこは害獣を駆除する存在として人間の生活に溶け込んだ存在でした。
ウイスキーづくりにおいても猫は重宝されており、多くの蒸留所で猫が飼われていたそうです。
中には、後世に語り継がれるほど有名になったウイスキーキャットもいます。
ギネスにも認定された伝説のウイスキーキャット「タウザー」
世界で最も有名なウイスキーキャットといえば、スコットランドのグレンタレット蒸留所にかつて実在した「タウザー(Towser)」です。
タウザーは生涯にわたり28,899匹ものネズミを捕獲した猫として、ギネス世界記録にも認定されていました。
タウザーが獲物を捕まえるたびにスタッフに見せに来る習性によって数えられたもので、実際にはもっとネズミを捕まえていたのではないかと言われています。
彼女の功績を称えて、蒸留所にはタウザーの銅像が建立。
現在でも多くの観光客が彼女に会いにグレンタレット蒸留所を訪れています。
実はタウザーには、もうひとつ興味深い逸話があります。
それはイギリスのエリザベス2世との誕生日が同じだったということです。
タウザーが23歳(人間換算で161歳)の誕生日を迎えた年に蒸留所スタッフは「同じ日に生まれたグレンタレット蒸留所のタウザー」という宛名でエリザベス女王にバースデーカードを送付しました。
すると数日後、女王からは「161歳のお誕生日おめでとうございます」というユーモアあふれる返信が返ってきたそうです。
この逸話は英国国内でも話題となり、タウザーの存在はますます伝説化していきました。
1987年にタウザーが亡くなった際には、BBCをはじめとする全国メディアで追悼報道が行われ、その生涯が多くの人々に称えられました。
現代のウイスキーキャットたちとPR活動

現在、害獣駆除のためのウイスキーキャットは見られなくなりました。
近年の衛生管理や倉庫の密閉性が高まったことにより、ネズミの出現は大幅に減少したためです。
ところが、それでもなお猫たちは蒸留所の“顔”として活躍しています。
例えば、グレンタレット蒸留所では現在も「PRキャット」が在籍し、来訪者を癒す存在となっているそうです。
また、アメリカのウッドフォードリザーブ蒸留所にいた「エリヤ(Elijah)」も有名なウイスキーキャットで、SNSで多くのファンに愛されました。
亡くなった後には「#RememberingElijah」というハッシュタグで多くの追悼が寄せられました。
ねこと縁深い蒸留所

グレンタレット蒸留所:伝説のタウザーが眠る場所
スコットランド・ハイランド地方に位置する「グレンタレット蒸留所」は、現存するスコッチウイスキー蒸留所の中で最も古いとされる蒸留所です。
ここには、かの有名なウイスキーキャット「タウザー」が生涯を過ごしました。
彼女の働きぶりは蒸留所の品質管理と衛生環境を守る上で大きな貢献を果たし、現在でもその功績を称えて銅像が設置されています。
この蒸留所はブレンデッドウイスキー「フェイマスグラウス」のキーモルトとしても知られ、古くからの製法を守る職人気質な姿勢でウイスキーづくりを続けています。
特に注目すべきは、スコットランド唯一の手動による糖化槽(マッシュタン)を使用している点で、現代の大量生産とは一線を画す伝統的な製法を守り続けているのです。
クライヌリッシュ蒸留所:山猫のエンブレムを持つ蒸留所
スコットランド北部にある「クライヌリッシュ蒸留所」も、猫好きにとっては見逃せない場所です。
この蒸留所のシンボルは「山猫(ワイルドキャット)」であり、ラベルにも誇らしげにその姿が描かれています。
歴史的には1819年にスタッフォード伯爵によって設立され、1925年にDCL社(現ディアジオ)が買収。
現在では「ジョニーウォーカー ゴールドラベル」の主要モルトとしても使用されるなど、世界的に有名な蒸留所のひとつです。
また、クライヌリッシュと隣接していた「ブローラ蒸留所」はピートの効いたモルトで知られ、現在では幻のウイスキーと呼ばれています。
猫が持つ俊敏さや野生の鋭さを象徴するこのエンブレムは、ウイスキーのもつしなやかで洗練された力強さをも体現しているようです。
ウッドフォードリザーブ蒸留所:アメリカの名猫エリヤ
ケンタッキー州の歴史ある蒸留所「ウッドフォードリザーブ」では、「エリヤ(Elijah)」という名前の猫が長年にわたり訪問客のアイドルとして活躍しました。
ハンティングにはさほど関心がなかったエリヤですが、その愛らしい姿で観光客の心を掴み、まさにマスコットとして蒸留所のPRに大きく貢献していました。
彼が亡くなった際には、「#RememberingElijah」というハッシュタグがSNS上にあふれ、多くのファンがその死を悼みました。
蒸留所のクラフトマンシップとエリヤの温かさが結びつき、今もなお語り継がれる存在となっています。
猫モチーフのウイスキーとおすすめギフトボトル
猫好きにとって、猫がデザインされたウイスキーボトルはそれだけで魅力的なアイテムです。
ここでは、猫をモチーフにしたラベルが特徴的なウイスキーや、贈り物としても喜ばれる個性派ボトルをいくつかご紹介します。
クライヌリッシュ 14年
前述したクライヌリッシュ蒸留所の定番ボトル「クライヌリッシュ 14年」は、シンプルながら堂々とラベルに山猫の紋章が描かれており、猫好きの心をくすぐる1本。
ウイスキー自体も上品でフローラルな香りと、オイリーでスムースな口当たりが魅力です。猫モチーフを語るうえで外せない一本といえるでしょう。
ジャンル | シングルモルト |
---|---|
生産国 | スコットランド・ハイランド |
アルコール度数 | 46% |
樽 | ‐ |
熟成年数 | 14年 |
クライヌリッシュ蒸留所からオフィシャルリリースされている唯一のボトルが「クライヌリッシュ14年」です。
山猫の絵が印象的で、過去にはUD社の花と動物シリーズからリリースされていました。
華やかなはちみつの香りにフルーティなフレーバーとほのかにソルティさな余韻が特徴。
甘く芳醇な香りとアクセントの潮感があり、ウイスキー通から人気の高い銘柄となっています。

ジョニーウォーカー ゴールドラベル リザーブ
ジョニーウォーカーシリーズの中でも華やかさと滑らかさを兼ね備えた一本。
ラベルに猫が描かれているわけではないものの、クライヌリッシュが主要モルトとしてブレンドされており、猫にゆかりのあるボトルとして知られています。
ギフトボックス仕様も多く、プレゼントにも最適です。

グレンタレット トリプルウッド
グレンタレット蒸留所が誇る代表的なボトルのひとつが「グレンタレット トリプルウッド」です。
このウイスキーは、ヨーロピアンオークシェリーカスク、アメリカンオークバーボンカスク、アメリカンオークシェリーカスクの3種の樽で熟成されており、それぞれの個性が重なり合った豊かな味わいが特徴です。
猫をフィーチャーしたPR活動も盛んなグレンタレットらしく、伝統を守りながらも新たな試みに挑戦する姿勢がこのボトルにも表れています。

本坊酒造の「ラッキーキャット」シリーズ
本坊酒造がリリースする「ラッキーキャット」シリーズは、猫好きにはたまらないジャパニーズウイスキーです。
蒸留所に縁のある猫たちをモチーフに、個性豊かなブレンドや限定リリースが展開されています。
毎回異なる猫たちがテーマになっており、それぞれの猫の性格やエピソードにインスパイアされた味わいが楽しめるのも魅力の一つです。
特に数量限定での発売が多いため、猫好きかつウイスキー好きのコレクターにとっては見逃せないシリーズとなっています。
ウイスキーキャットに関するよくある質問
まとめ:猫とウイスキーの物語が教えてくれること
ウイスキーキャットは単なる可愛い存在ではなく、ウイスキーの世界における歴史の一部であり、職人の知恵と自然との共生を象徴する存在でもあります。
かつては原料を守る害獣駆除員として、現在では蒸留所の顔として、その役割を変えながらも人々の心に寄り添ってきました。
ウイスキーキャットの物語を知ることで、私たちはウイスキーの背景にある物語性、手仕事の尊さ、そして何より“愛される存在”が持つ力に気づくことができます。
猫好きなあなたにとって、ラベルやボトルだけでなく、そのウイスキーの背後にあるストーリーもまた、味わいの一部になるかもしれません。
特別な一杯を注ぎながら、静かな夜にウイスキーキャットのことを思い出す——そんな過ごし方もまた、大人の嗜みではないでしょうか。
『ウイスキーキャット』というテーマを通して、ウイスキーをもっと楽しく、もっと深く楽しむきっかけになれば幸いです。
コメント