和牛の肉の香りと脂の旨味で、ウイスキーの若々しい印象を包み込む。
そこへドライイチジクの甘味とコク、味噌漬けチーズの複雑な味わいを重ね、コーヒーを思わせる香ばしさにつなげる。
「HISHIDA DISTILLERY × CASK & FOREST THE NATIVE CASK」に合わせたのは、そんな発想から作った「和牛で巻いたイチジクと味噌漬けチーズ 柚子の香り」です。
最後に青柚子の皮を削り、香りを添えました。
料理の中にウイスキーと似た香りを探すだけでなく、脂や甘味、口当たりを使って、お酒の感じ方を組み立てたペアリングです。

焦がしたせんべいとコーヒーの香りから、料理を考えた
このウイスキーを飲んだとき、僕が感じたのは、焦がしたせんべいやコーヒーを思わせる香ばしい香りでした。
その一方で、ニューポットに近い未熟香やフレッシュさも感じました。
ニューポットとは、蒸留したばかりの原酒のことです。
ここでいう「若々しさ」は、僕が香味から受けた印象で、熟成年数を示すものではありません。
料理を考えるうえで手がかりにしたのは、特にせんべいのような香ばしさ。
そこから、和の味わいを持ちながら、お酒を受け止める力のある料理を合わせたいと考えました。
選んだのが、和牛、味噌漬けチーズ、ドライイチジクという構成です。
肉の香りと脂の旨味を土台にして、味噌とチーズの複雑さ、イチジクの甘味を重ねます。
和牛、味噌漬けチーズ、イチジクをひと口にまとめる
この料理では、それぞれの食材を別々に食べるのではなく、和牛で巻いて一緒に味わえる形にしました。
お酒と合わせるときに、肉だけ、チーズだけという組み合わせにならず、ひと口の中で役割が重なる構成です。
和牛は、肉の香りと脂の旨味を担う
和牛に求めたのは、肉らしい香りと脂の旨味です。
ウイスキーの香ばしさへ料理をつなぐだけでなく、若々しい印象を受け止める土台として使いました。
実際に合わせると、肉の香りと脂の旨味が、お酒の若々しいニュアンスを包み込むように感じられました。
その中から、せんべいやコーヒーを思わせる香ばしさを感じ取りやすくなったのが、今回の発見です。
味噌漬けチーズは、塩味と複雑なコクを加える
チーズには、チェダー入りのプロセスチーズを使いました。
合わせた味噌は、信州赤みそです。
チーズだけの味わいに、味噌の塩味や風味が重なることで、料理に奥行きを持たせます。
ここで狙ったのは、塩味を強くしてお酒へ対抗することではありません。
和牛の脂の旨味やイチジクの甘味と一緒に味わったときに、単調にならない複雑さを作ることです。
実食でも、この味噌漬けチーズの複雑な味わいが、お酒のコーヒーを思わせる印象につながっていました。
ドライイチジクは、甘味とコクでつなぐ
イチジクは、フレッシュではなくドライを選びました。
この構成の中で担うのは、甘味とコクです。
和牛と味噌漬けチーズだけでは、肉の旨味や塩味が中心になります。
そこへイチジクが加わることで、甘味を含んだ厚みが生まれます。
実際に合わせたときも、イチジクの甘味やコクが、味噌漬けチーズとともにコーヒーのような香味へつながっていました。
イチジク自体にコーヒーの香りがあるから合わせた、という発想ではありません。
料理の甘味とコクを重ねることで、お酒に感じた香ばしさとの接点ができたと捉えています。

青柚子は、果汁を加えず香りだけ添える
仕上げには、青柚子の皮をマイクロプレーンで削りました。
マイクロプレーンは、柑橘の皮などを細かく削れるおろし器です。
今回は果汁を使わず、皮の香りだけを添えています。
肉、味噌漬けチーズ、ドライイチジクで作った味わいに、柚子の香りを加える仕立てです。
酸味を加えて味のバランスを変える方法と、皮を削って香りを添える方法では、料理の仕上がりも変わります。
このひと口では、柚子を香りの要素として使いました。
若々しさを包むことで、香ばしさが感じやすくなった
実際に合わせて印象に残ったのは、ウイスキーの香ばしさの感じ方が変わったことです。
和牛の肉の香りと脂の旨味が、ニューポットを思わせる未熟香やフレッシュさを包み込むように感じられました。
若々しい印象がなくなったというより、その中にある香ばしさへ目を向けやすくなった感覚です。
そこへ、イチジクの甘味とコク、味噌漬けチーズの複雑さがつながります。
お酒に感じたコーヒーのようなニュアンスと料理が重なり、深みのあるペアリングになりました。
これは、料理によってウイスキーの成分が取り除かれたり、変化したりしたという説明ではありません。
一緒に味わったとき、僕にはどの香味が感じやすくなったか、という実食の結果です。

香りを合わせるために、脂や甘味も設計する
今回のペアリングでは、香ばしいお酒に香ばしい食材を合わせることだけを考えたわけではありません。
和牛の香りと脂の旨味を土台にして、イチジクの甘味とコク、味噌漬けチーズの複雑さを重ねました。
香りの方向を合わせるために、料理側の味わいや口当たりも組み立てています。
香りの接点は、香りの似た食材を選ぶ以外の方法でも作れる。
今回、料理人として面白く感じたのは、その部分でした。
ウイスキーだけを飲んだときに目立つ印象と、料理を合わせたときに感じやすくなる印象は、同じとは限りません。
お酒のどの表情を楽しみたいかを考えると、食材の選び方や組み合わせ方にも理由が生まれます。
ストレートとハイボール、どちらも想定したひと口
この料理は、ストレートとハイボールの両方を想定して組み立てました。
ハイボールで合わせたときには、より気軽に楽しめる印象もありました。
飲み方による詳しい香味の違いは、後日まとめるテイスティングレビューで扱う予定です。
今回は、和牛、味噌漬けチーズ、イチジクを重ねることで、お酒の香ばしさへどうつながったかを中心に紹介しました。
和牛で巻いたひと口から、お酒の表情を考える
「和牛で巻いたイチジクと味噌漬けチーズ 柚子の香り」は、THE NATIVE CASKに感じた香ばしさから考えた料理です。
和牛の肉の香りと脂の旨味が若々しい印象を包み、イチジクと味噌漬けチーズがコーヒーを思わせる香味につながりました。
青柚子は、最後に香りだけを添えています。
似た香りを重ねることに加えて、脂、甘味、コクをどう組み合わせるか。
そこまで考えることで、ウイスキーと料理のペアリングを設計する面白さが広がります。



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