同じ蒸留所、同じ大麦、同じ酵母、同じ蒸留方法。
レシピはまったく変えていないのに、できあがるウイスキーの味わいが夏と冬で違う。
そう言われたら、信じるでしょうか。
実はこれは、ウイスキーづくりの現場ではよく知られた現象なんです。
夏に仕込んだニューポット(蒸留したての原酒)はすっきりと軽やかに、冬に仕込んだニューポットはどっしりとリッチになりやすいのだそう。
レシピが同じなのに、いったい何が違うのでしょうか。
その謎を解く鍵は、蒸留工程のある部分に隠されているんです。
夏はすっきり、冬はリッチ。季節が生む異なる味わい

結論から言うと、夏場に造られるウイスキーは、比較的クリアですっきりとした酒質になりやすいと言われています。
一方、冬場に造られるウイスキーは、重厚でリッチな酒質になりやすい傾向に……。
仕込み方や原料を変えているわけではないのに、季節が違うだけでここまで差が出るというのは、ウイスキー好きとしてはやはり見過ごせないポイントですよね。
余談ですが、現代でも夏場にメンテナンス期間を設け、稼働を止める蒸溜所があります。
安井まだウイスキーに詳しくなかったころ、夏場にあこがれの蒸留所に行って、メンテナンス中でがっかりした思い出があります……(笑)。
もちろん、設備を整えるための休止という側面が大きいでしょう。
ただ、暑い時期のウイスキーづくりには、昔から冬場とは異なる難しさがあったこともうかがえますね。
蒸気と銅、知られざる名コンビの正体を探る

実は、夏と冬でウイスキーの味わいが変わる秘密は、銅に隠されています。
それでは、順を追って見ていきましょう。
このコンデンサーは、ポットスチルと同じく、基本的に銅でつくられています。
銅を使う最大の理由は、アルコール蒸気と反応し、硫黄系のオフフレーバー(嫌な香り)を取り除いてくれるからです。
その働きを左右するのが、アルコール蒸気と銅が触れ合う時間と面積。
接触する時間が長く、面積が大きいほど硫黄系の成分が取り除かれやすくなり、酒質はよりクリアですっきりとしたものになります。
ここまで来れば、夏と冬の違いの正体はもう見えてきたのではないでしょうか。
| 夏 | 気温が高いため、アルコール蒸気はなかなか液体に戻らない。 →コンデンサー内で銅と接している時間が長くなり、オフフレーバーの除去効果が強く働く。 | すっきり |
|---|---|---|
| 冬 | 気温が低いため、アルコール蒸気は早めに液化。 →銅との接触時間は夏より短くなり、除去効果もそれだけ小さくなる。 | どっしりリッチ |
同じ設備、同じ手順でも、外気温によって銅と蒸気の対話の長さが変わる。これが、季節によってニューポットの個性が分かれる理由なんです。
なお、コンデンサーには大きく分けて「ワームタブ式」と「シェル&チューブ式」の2タイプがあります。
構造によっても銅とのコンタクトの多寡が変わるため、酒質に違いが生まれるようです。
ただしこれは今回のテーマである「同じコンデンサーでも季節によって差が出る」という話とは別の軸なので、混同しないよう補足しておきたいと思います。
気温任せにしない蒸留所もある
面白いのは、銅とのコンタクトを気候まかせにせず、あえて人工的にコントロールしようとする蒸留所も存在することです。
スコットランドのダルモア蒸留所では、スピリットスチルのネック部分に冷水を通す銅管ジャケットを装着。
ここでは重いフレーバー成分をあえて気体のまま高温状態に留め、還流(ポットスチルへ戻して再蒸留すること)を促す仕組みがとられています。
蒸留所長のスチュアート・ロバートソン氏は、このウォータージャケットなしでは「硫黄成分の含有レベルが高くなる」と語っており、還流の量をコントロールすることでフレーバーのバランスを調整しているそうです(参考:Whisky Magazine Japan)。
気温という自然の変数に身を委ねる蒸留所がある一方で、こうして人為的に還流や接触時間を操作し、狙った酒質に近づけようとする蒸留所も……。
この「気候依存」と「人工管理」という2つの哲学の対比は、後半でもう一度触れたいと思います。
ウイスキーは、もともと冬にしか造れなかった

実は、夏にウイスキーを造らないことは珍しくありませんでした。
夏には「モスボール」と呼ばれる製造休止期間があります。山崎蒸溜所が操業を始めた1924年当時も、ウイスキーづくりは冬季中心に行われていたそうです。
スコットランドでも日本でも、通年での生産が可能になったのは冷却機械が発明されてからのことで、それも比較的最近の話にすぎません。
つまり100年ほど前のウイスキーは、今よりも銅との接触時間が短い、どっしりとしたリッチな酒質のものが主流だったと考えられます。
地球温暖化の影響もあって近年、夏はますます暑くなっていますが、皮肉にもそのぶん現代のウイスキーは、当時と比べてよりクリアな仕上がりになっている可能性があるのです。
季節に逆らう蒸留所もある
一方で、季節による影響を排除し、年間を通じて味わいを一定に保とうとする方針の蒸留所も少なくありません。
たとえばスコットランドのフェッターケアン蒸留所では、酵母を投入する際の麦汁温度を夏は19℃、冬は21℃に調整しています。発酵中の温度も最高34℃までに抑え、年間を通じた品質の一貫性を保っているとのことです(参考:Whisky Magazine Japan)。
米国ミズーリ州にあるラックス・ロウ・ディスティラーズでは、外気温が氷点下から40℃近くまで変動します。そこで採用されているのが、温度調整機能を備えた発酵槽。季節を問わず、発酵温度を一定に管理しているそうです。
さらに、アイオワ州のテンプルトン蒸留所では、冬季は7℃・夏季は27℃にも達する外気の影響を抑える工夫も。最新式の温度管理技術によって貯蔵庫内を18〜21℃に保ち、熟成環境を一年中変えない工夫がなされているようです。
これとは対照的に、スコットランド・ファイフ地方のインチデアニー蒸溜所では、気温の変化をあえてウイスキーづくりに取り入れています。その象徴ともいえるのが、屋外に設置された発酵槽です。原料についても、一般的な春大麦だけでなく、ウイスキーでは使用例の少ない冬大麦を使い分けているといいます。

季節による変化をそのまま個性として受け入れる蒸溜所と、その影響を抑えて一貫性を追求する蒸溜所。
どちらも、それぞれの土地の気候と向き合った末にたどり着いた、ひとつの答えなのでしょう。
季節を味方につけるか、コントロールするか

夏と冬でニューポットの酒質が変わるのは、どちらが優れているという話ではありません。
求める味わいの方向性によって、どちらも正解になり得るでしょう。季節の変化をそのまま個性として受け入れる哲学もあれば、フェッターケアンやテンプルトンのように、あえて季節の影響を排除して一貫性を追求する考え方もあります。
どちらも、その土地の気候とじっくり向き合った末に選ばれた、ひとつの答えなんですね。
実際には、ボトルのラベルから蒸留された季節を知る手段はほとんどありません。
そのため、夏生まれと冬生まれの違いを意識して飲み比べる機会は、そう多くないでしょう。
それでも、グラスを傾けながら「これはどんな季節に生まれたのだろう」と想像してみると、いつものウイスキーが少し違って見えてくるかもしれません。
出典・参考記事
- ウイスキー日記「夏と冬では、できるウイスキーの味わいが違う!?」(チャーリー氏、2026年3月4日)
- イアン・ウィズニウスキ「温度管理とウイスキーの個性」Whisky Magazine Japan(参照URL:https://whiskymag.jp/temprature/)


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